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実践した人だけが語れる真実

日本マイクロソフト株式会社 執行役員 最高技術責任者(CTO)

マイクロソフト ディベロップメント株式会社 代表取締役社長 

榊原 彰

 統的な開発手法とは異なり「変化する要求を受け入れながら開発するプラクティス」は1990年代後半からXPが人気となり、2000年代に入ってアジャイルソフトウェア開発宣言(Agile Manifesto)によって、ついに「アジャイル」という新鮮な用語とともに、爆発的に知名度を高めたことはよく知られるところである。だが、用語が一般的に広く認知されると言葉の上っ面だけを理解してロクに実践もしないまま理解したような気になる人も現れる。そうした方がコンサルティングをして失敗するプロジェクトも多かった。 

 本書の著者、三井さんは長年ソフトウェア開発の現場でさまざまな体験をされてこられた方だ。私と知り合ったのはもう30年近く前になるだろうか、ソフトウェア開発支援ツールのビジネスに関係してのことだったと記憶している。

 しばらくご無沙汰していたのだが、昨年彼から「とあるお客様の開発現場をコンサルティングしているのですが、かなり成果が出てきたので見学に来ませんか?」とのお誘いを受けた。見学の場での三井さんのご説明はまさに本書に書かれている内容そのもの。ホワイトボードの前に立ってプロダクトバックログの意味を解説してくださったり、チーム内のコミュニケーションの改善手順を懇切丁寧に説明してくださったり。最後には開発チームの方々から、チームがいかに成長してきたのかという苦労話をプレゼンしていただくという機会まで設けていただいた。私にとっては大変勉強になる時間だった。

 一つクリアしたら、また一つ課題が出る。彼のコンサルティングの下でチームが挑戦してきたことは、そうして少しずつチームの力を向上することだった。実践した人だけが語れる真実。本書にはその地道な歩みが記されている。

 アジャイル開発は、クラウドやインフラのソフトウェア化などの技術革新により、広範にevOpsという形に発展し、リーンスタートアップのようなビジネスのスピードに呼応する経営手法の根幹をなす中核となった。現代企業のビジネスはソフトウェアによって実現されている。

 各企業は自社の要求を素早く実現する能力を身につけなければならない。実践あるのみである。私が所属するマイクロソフトのCEOであるサティア・ナデラはかつてこう言った。「我々の産業は伝統を重んじるのではなくイノベーションを尊重する」三井さんが本書で言わんとしていることは、まさに現場力・チーム力のイノベーションである。読者諸氏にはぜひ本書にならって一つずつ課題をクリアしていくことをお勧めする。