真のアジリティー実現のための基礎体力

間違った見える化からはなにも生まれない!

ホーム=>グループ見出しページ=>詳細ページ 

●アジリティの二大要素

日本語で表現すると、機敏性ということになるでしょうか。

機敏性があるといことは、どういうことでしょうか?『無駄なく、きびきびと動いている』というイメージでしょうか。そうですね、一般的にはこのようなイメージが『機敏性がある』と表現されるのではないでしょうか。ちょっと考えてみましょう。機敏性を構成する要素はなんでしょうか?

『きびきび』という印象を受ける要素のひとつにスピード感があると思います。さらに『無駄なく』というイメージには、目的がはっきりしていて、その目的に向かって寄り道をせずに一直線で向かっているといったイメージがあるでしょうか。

そうですね、機敏性があるというイメージには、このような二大要素があってはじめて機敏性があるという印象や表現に至るのではないでしょうか。

そこで、今日は、組織がこの「機敏性」を確保するための基礎能力についてお話をします。機敏性を機動力と言い換えてもいいかもしれません。機動力とは、ある事象に対して、効果的、効率良く、対処できる能力とでもいいましょうか。そういった意味では、機敏性(性質)= 機動力(能力)だと思います。

●機動力を生む組織(チーム)の2つの基礎体力

○仕事のスピード

まず、最初に挙げられる能力はスピードです。『仕事のスピードを上げる』ということは、どのような要素に分解できると思いますか?

① その仕事自体の処理時間を短縮する

② 意思決定の頻度を上げる

③ 意思決定の時間を短縮する

④ 一人で活動するのではなく、チームで補完し合う

⑤ 全員が作業(仕事)の品質に、高い意識を持っている(品質を最優先で考える習慣)

そう、この5点がとても大事な要素になります。

○目的・目標の理解・共有

次に、『その目的に向かって寄り道をせず一直線に』ということは、目的や目標を関係者全員で明確に理解し、共有しているということです。したがって共有されるべき要素は、

① 組織(チーム)のビジョン(あるべき姿)

② 目標とその進展具合の完全な見える化

③ 組織(チーム)のミッション(存在意義、価値)

となります。

●鍵は『見える化』

皆さん、すでになにかに気づきませんか?

上に挙げた機動力を生み出す二大要素に共通する基礎の基礎能力は『見える化』です。したがって、VUCAの時代に働く人の最低限必須な能力は『見える化』となります。そうでないとVUCAな時代に機敏性を持って機動力を発揮できる組織(チーム)にはなれません。この能力を備え、かつ日々環境の変化に対応して、改善をし続ける能力を持つことが勝者の条件です。

○見える化と見せる化のはき違えに注意!

では『見える化』とは、一体なんなのでしょうか?最近はよくこの『見える化』が大事だと、いろいろな場面で言われています。しかし残念ながら本当の意味での『見える化』に出会うことは非常に稀です。大方の皆さんが『見える化』の意味を履き違えています。

本当の意味での『見える化』とはなんでしょうか?よく見られるのは『見せる化』で、『見える化』とは程遠い状態です。『見える化』とは、他人にわかってもらう、誰かから言われて行う、そのようなモノではありません。

『見える化』とは、自分やチームの仲間が自分たちの今ある現状を正しく理解し、現状に対処したり、改善するために自分自身にとって必要なモノをリアルタイムで可視化することです。今の自分たちの状態が、正常状態なのか?異常状態なのか?誰でも瞬時に判別できることが求められます。

そうです『見える化』とは、誰でも瞬時にその現場の状態が、正常か?異常か?判別ができるように可視化されて表現されていることです。決して単に現場の状況をモニターして可視化していることではありません。これがTPS(トヨタ生産方式)で大事にされている『現地現物』の基本的なプラクティスであり、機敏性、機動力の真の基礎能力です。これができてはじめて正しい意志決定を高速で行うことが可能になり、自律したチームや個人になることができます。別の視点から言えば、真の『見える化』とは自律したチームや個人になるための最低限必要な能力だということです。

もう一度『見える化』について注意を喚起します。『見える化』とは結果を見えるようにすることではありません。プロセスを見えるようにすることです。これは絶対に履き違えないでください。

 ○見える化のメリット

『見える化』が実現できると、いろいろなメリットを享受できます。その代表的なメリットを挙げましょう。

① 会議が少なくなる

② 会議時間が短くなる

③ 上司への報告書、レポートを廃止できる

④ 説明責任を簡単に果たせる

⑤ 上司の意思決定を素早くもらえる

どうでしょうか?こんなにたくさんのメリットがあるのならば、真の『見える化』にチャレンジしてみたくなりませんか?

思い立ったら、今から仲間と真の『見える化』のためになにをどう見えるようにしたらいいか話し合って実践してください。そして定期的にふりかえって『見える化』の質を高めてください。ここで大事なことは、見える化の完成形を目指すのではなく、とりあえず今必要だと思われるモノを『見える化』することです。誰もはじめから見える化の完成形は描くことはできません。ビジネスやその環境のわずかな変化にでも皆さんの仕事が影響を受けるからです。

基礎の基礎能力である『見える化』に取り組み始めたら、本来の目的であるビジネススピードを高める能力の醸成に取り組みましょう。『見える化』を真剣に実行しないと次のステップへは移れませんの。注意してください。中途半端な見える化では、ビジネススピードを高めることは絶対にできません。このことは肝に銘じておいてください。皆さんの『見える化』の質的、量的な向上と相まってビジネススピードは向上していきます。

●真のアジリティ実現のための基礎体力づくり①―ビジネスピード

機動力を生む組織(チーム)の基礎体力の一つ目は、ビジネススピードを高めることです。

ビジネススピードを向上させる第一歩は、まず意思決定のスピードをどうやったら向上させられるかです。皆さんの組織環境を前提に検討してください。

今のどんな習慣(慣習)をどう変えればいいのか?

今実行されている意思決定のプロセスは、お客様視点で検討したときに、本当にお客様のためになるしくみか?

業界や自社の都合で決められた自己防衛的なルールが多くありませんか?それって本当に必要でしょうか?仕事のプロセスや、やり方を変えたら不要になるルールはありませんか?徹底的にお客様にとって意味のない(価値を産まない)プロセス、仕事を取り除きましょう。

そうして最短ルートで何日、何時間で意思決定ができるようになりますか?新しい決定プロセスを設計してください。また見える化で把握できるようになった情報は、報告書やレポートから取り除きましょう。それでもまだその報告者やレポートの存在価値はありますか?目標はNO報告書、NOレポートで現場、または現場に限りなく近い場所で意思決定ができるようにすることです。オペレーションに関わる意思決定は役員会では追認で十分です。役員会は戦略に関わる意思決定を主に行うところです。

さらに仕事を素早く片付けるための考え方は、仕事の品質をつねに作業者全員が意識して仕事に取り組むことです。とくにホワイトカラーの仕事の最大のムダは『やり直し(Re Do)』という作業です。

このやり直しを排除するためにはどうしても作業の品質にこだわらなければなりません。どうこだわるか?仕事(作業)のプロセスにこだわることです。どういう手順(ダンドリ)で仕事をすれば重複作業(やり直し)を防いで品質を高められるかを職場の仲間と検討してみてください。ここでこだわるのは結果ではなくプロセスです。このプロセスの設計の仕方いかんで、品質やスピードが決まります。結果を見て調整することはできません。正しいプロセスで仕事ができれば正しい結果を生み出します。

ここでちょっと脱線しますが、品質を高めたり、スピードを早めたりする重大な要素を種明かしします。それは仕事(作業)を細かな手順(ダンドリ)に分解して、しっかりと定義しておくことです。この分解された後の細かなダンドリをタスクと言います。

定義されるタスクは細かければ細かいほど、品質もスピードも向上します。理想的には1タスクの大きさ(粒度)は作業時間にして60分です。もしもっと細かくできるようならさらに細かく定義してみてください(筆者の経験では最小タスクは15分です)。

なぜ1タスクの粒度が60分なのか?それは人間が仕事(作業や勉学)をするときに集中できる限度が60分だからです。

このようにダンドリを設計できれば、つねに作業する人は集中力を切らさずに仕事に臨めるということです、集中して仕事をすれば、ミスや油断がなくなり、結果として作業品質もスピードも向上します。

Tips:この仕事をタスクに分解する作業は一人で行わずに仲間と一緒にチーム全員で実施してください。とくにベテランの方は注意です。ベテランの自己流(自分流)の効率が良いと思い込んでいる手順の中に意外とムダが潜んでおります。仲間とタスクへの分解を実施することで、このムダに気づくことができます。

●真のアジリティ実現のための基礎体力づくり②―目的・目標の理解・共有

機動力を生む組織(チーム)の基礎体力の二つ目は、目的、目標を関係者全員で明確に理解し、共有しているということです。

ここでアジリティーのある組織における管理者の役割について一言付け加えておきます。従来からの指示命令型管理者のイメージとはちょっと違います。

どちらかというと、サーバントリーダーシップと言われるタイプです。その名前のとおり、管理監督をする管理者(リーダー)ではなく、下支えをする管理者(リーダー)です。

アジャイルマニフェストに添付されている12のアジャイル原則の中に、

 『やる気のある人々を集めてプロジェクトを組織し、彼らが必要とする環境と支援を与え、仕事が完了するまで信頼する。

とあります。

そうですこの原則に書かれているように、必要とする仕事の環境と支援をすることが『下支えをする』というふるまい方です。

本題に戻りましょう。

『目的、目標を関係者全員で明確に理解し、共有する』ためには、まずは、目標なり目的を関係者全員に周知徹底する必要があります。TPS(トヨタ生産方式)で言うところの『方針展開』です。

上層管理者は、自組織の存在意義(価値)やビジネス目標、目的を全員にわかりやすく簡潔明瞭に説明しなければなりません。また何度も全員が理解できているか確認し、何度も目的、目標、趣旨を繰り返し説明する必要があります。一度話したからわかっているはずだという思い込みを排除してください。

現場があなたの思うように動いていない、進んでいないのは相手(現場)が悪いのではなくて、あなたの説明が悪いか、思いが足りないかです。どんな人にもわかるように何度でも思いを込めて話さなければなりません。これは上層管理者としての最低限の資質です。そうしてはじめてあなたの組織で目的や目標が共有できるのです。

さらに組織(チーム)のビジョン(あるべき姿)や、ミッション(存在意義、価値)を日頃から、何度でも説明して理解を深めてもらっていれば、現場はあなたに代わって素早く意思決定ができます。このような努力なしには、現場への権限委譲は不可能です。

このように上層管理者は、指示命令を出す代わりにつねに現場に足を運び、現場の社員と意見交換をしてあなたの強い思いを共有できるように心が掛けてください。このような常日頃からの管理者のふるまいがなければ、組織に機敏性や機動力などを求めることは完全に不可能です。

管理者側の心構えをお話ししました。では現場ではどうふるまえばいいでしょうか?

上司からの方針展開を受けて、その指針に沿ったチームの活動があれば、組織の目指す方向に向かって、努力すれば、自ずと結果は組織の価値を体現してお客様に満足を得ていただけることになります。したがってここで重要なことは組織の方針、目標、目的と皆さんの活動そのものが合致しており、その進捗を見える化できるかです。

上部からの方針展開を受けてチームとしての活動計画に落とし込み、かつ見える化の有効なツールとしてTPS(トヨタ生産方式)のビジュアルマネジメントボード(VMB)があります。 

このビジュアルマネジメントボードも、一度作成してそのままで利用するモノではありません。

一度作成したら、定期的(1週間に一度程度)にふりかえりを行い、そして、活動計画を見直し、適宜修正、変更を加えてください。このVMBが完成するのは、皆さんのその活動が終了した時点です。活動をしながらつねに振り返りを行い、修正、変更、追加を繰り返してください。このような行動習慣が組織に機敏性、機動力を醸成します。ビジュアルマネジメントボードの作成方法やボードの運営については、ここでは割愛しますので、ご興味がありましたらあれば、私どもコンサルタントに相談してください。

令和4年4月6日

戸田孝一郎