権限委譲が出来る組織できない組織

現場の見える化とマネジメントの見える化



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権限委譲ができる組織、出来ない組織

現場の見える化とマネジメントの見える化

●なぜ権限移譲ができないのか

『アジャイル開発は自律したチームで』と言われますが、自律したチームとは、現場のチームが自ら意思決定できるチームということです。外部の人(管理者等)から指示を仰がなくても行動できる習慣を持つことになります。これはある意味、現場のチーム(開発チーム)に管理者から権限移譲がなされているということです。

どうでしょうか皆さん、特に管理職(リーダー)の方々に伺いますが、現場に権限移譲できますか?たぶん多くの方々が、否定的な回答をされると想像します。理由はいろいろでしょうが、主な理由は、現場にそれだけの(意思決定をするうえで要求される)経験や知識、スキルが不足しており判断ミス(適切な判断ができない)が起こりやすいといったことではないでしょうか。

本当にそうでしょうか?私(筆者)は、管理者の皆さんの権益保護的な言い訳のように感じています。現場では本当に適切な判断ができないでしょうか?私(筆者)はまったく逆の発想を持っています。現場でこそ適切な判断ができると。

もし疑われるようでしたら一度試してみてください。あなたが持っているその意思決定に必要な情報を現場に渡して依頼してみてください。多分あなたが行う意思決定と同等、もしくはあなた以上に素晴らしい意思決定ができるかもしれません。

これはTPS(トヨタ生産方式)でも唱えられている、現場現物でのファクトコントロールのなせる業です。そうです、管理者の皆さんが現場へ権限移譲(意思決定)をできない、または移譲する不安の原因は、管理者の皆さんが持っている意思決定に必要な情報を開示しない、もしくはしたくないという理由からでしょう。

もし管理者の皆さんが持っている情報(知識を含む)を完全に現場と共有できれば、現場ではジャストインタイムで適切な判断(意思決定)が可能です。このためには、日ごろからTPS(トヨタ生産方式)で言われる方針展開が必須です。

●方針展開というプラクティス

TPS(トヨタ生産方式)で唱えられている『方針展開』とは、単に業務目標などビジネス目標を部下に落とすことではありません。会社の理念、ビジョン、ミッションステートメント、さらには組織(企業)の持つ文化や価値観などが含まれます。単なる業務目標や中期計画ではありません。

このような情報を現場と完全に共有できていれば、現場では、現場で今起こっている状況を考慮して適切な判断ができるようになります。方針展開は言い換えれば、現場で現場の今の状況に合わせた適切な意思決定(判断)ができるようにするしくみ(プラクティス)です。

●判断ミスを防ぐために必要なこと

ホワイトカラーの仕事は小さな意思決定の連鎖で成り立っています。そこで、意思決定の誤り、判断ミスについての考えたいと思います。

正しい意思決定、正しい判断を下すためには、どのような要素が重要でしょうか?ちょっと考えてみてください。経験や知識があればあるほど良いといった漠然としたものではなく、もっと具体的なものです。

私はとき2つの大きな要素があると思います。一つは『情報の量』、もう一つは『情報の質』ではないでしょうか?経験や知識も情報の量や質に関わるものではないでしょうか?

正しい判断(意思決定)を行うためには、この情報の量と質(正確性)が大事です。判断ミスを防止する、正しい意思決定をするために、十分な量の情報と、現状を正しく反映した精度の高い情報が手元にあるか?ということです。

業務で考えて見ましょう。正しい判断をするためには正しい判断をするうえで最低限必要不可欠な情報が手元になければなりません。またその情報は、現実を正しく反映した情報でなければなりません。では正しい(正確な)業務にまつわる情報はどこにあるのでしょうか?そうですね業務を遂行している現場(担当者)に存在します。

ここでちょっと待ってください。管理者の方が意思決定されるに、このように現場の正しい情報を入手していますか?多分ほとんどの管理者は、されていないのではないと思います。皆さんは、業務について「昔自分が担当のころ、しっかりとその業務を遂行していた」ので、よくわかっているとお考えではないでしょうか?

実はこの考え方がつまずきの始まりです。管理者の皆さんが経験されたのは今から10年、20年前ではありませんか?その時代と現代とでは仕事(ビジネス)の環境も、ツールもまったく違っていませんか?さらに大事なのは、その業務を実際に遂行される人は、管理者の皆さんではなくて、今年入社した新人社員かもしれません。皆さんが想定している仕事(ビジネス)環境とは全く異なっています。

正しい判断ができますか?逆によく知っているという経験や知識が仇となります。たしかに10年前、20年前はよくわかっていたと思いますが、当時と今日現在では状況が異なっていますので、知らないのとほとんど変わりません。TPS(トヨタ生産方式)で『現地現物』とか『Fact Control(ファクトコントロール)』という考え方が強調されるのはこのためです。

●企業として正しい判断(意思決定)を行うために

企業として正しい判断(意思決定)を行うために必要なことが2つあります。

一つは、現場での判断ミスを防止する方法と、もう一つは、経営判断(経営的な意思決定)を誤まらない方法です。

まず一つ目の現場での判断ミスを防止する方法ですが、現状の正確な情報は、業務を遂行している現場には既に存在します。現場で判断をしにくいのは、現場の情報が欠如しているためではなく、その現場を取り巻く環境(ビジネス)や経営方針(戦略)といった管理者側の情報です。日頃から管理者は、企業の目的、ミッション、戦略などを現場(部下)に何度でも説明し理解を得ておく(共有する)必要があります。

二つ目の経営判断を誤まらない方法は、つねに現場に出向いて現場の状況を把握しておくことです。ここで気をつけなければいけないのは、『知っているつもり』という自信過剰です。

●権限委譲で頼もしい部下軍団ができる

もう皆様はおわかりになったと思います。アジャイル開発やスクラムを利用したアジャイルな働き方に移行するには、管理者の皆さんが持っている権限(意思決定)を可能な限り現場のチームへ移譲して自主判断に委ねる必要があります。また現場のチームが判断ミスを起こさないよう、常日頃から何度でも現場のチームと管理者の皆さんが方針展開をしっかりと行い、情報や価値観の共有に努めなければなりません。

そので現場のチームは、自分の行動(仕事)やプロセスを常にリアルタイムで『見える化』する仕組みを確立し成熟化させなければなりません。

この『見える化』にもう一つ追加したい項目があります。それは、マネジメント(管理)の『見える化』です。このマネジメントの『見える化』で大事な考え方は、マネジメント(管理)プロセスの共有化です。

皆が同じ手法で行動(仕事)を管理するための大変有効なプラクティスがTPS(トヨタ生産方式)で紹介されています。アジャイル開発やアジャイルな働き方を採用するには、この手法を実践することが早道です。そして、経験を積み重ねたら、あなたのやり方を模索して確立してください。それがTOYOTA Wayから『あなたWay』として形式知化され、アジリティーを持った素晴らしい企業へと変革する基礎となります。

このために有益なプラクティスはTPS(トヨタ生産方式)にあります。それは、方針展開とビジュアル・マネジメント・ボード(VMB)です。

もう一度整理しましょう。『見える化』すべきモノは、

以上の3つが三位一体となって、はじめて『見える化』ができたことになります。

そのうえで、方針展開とビジュアル・マネジメント・ボード(VMB)を活用してマネジメント(管理)を『見える化』することで、あなたは安心して現場のチームへ権限移譲を行う事ができます。現場チームは、判断ミスを心配せずにジャストインタイムでの意思決定ができ、アジリティーが飛躍的に向上します。

さあどうでしょうか?管理者の皆さん、あなたのチームで今日から取り組みませんか?そうすれば、あなたは安心してあなたのチーム(部下)へ仕事を依頼できますし、受けた現場のチームは自信をもって自律したチームへ変身できます。頼もしい部下集団が実現します。

戸田孝一郎